2007年09月04日

海外文学:ヘミングウェイ著「老人と海」福田恆存訳、FRAMESHIFT「La Mer」、或いはドビュッシーの「海」

ノーベル文学賞受賞作家アーネスト・ヘミングウェイの作中最も名高い本作「老人と海」。
老いた漁師サンチャゴが85日という不漁を乗り越える4日間のサメとの対決を描く人間ドラマ。

オススメ度:☆☆☆☆☆

初めて読んだのは高校2年生の時だった。
この蒸し暑い夏、家にいてもどうしようもないときに久しぶりに読んだ。喫茶店で手にしていた一冊がこの「老人と海」であり、涼しい喫茶店の中で読むヘミングウェイは素晴らしい時間をもたらしてくれた。うん、これは紛れもない傑作であり、歴史に名を残していて多くの人が愛している一冊である。
この主人公サンチャゴの描写がとにかく大好きで、この描き方には心が惹かれる。描写がハードボイルドだからという小説の手法のことではなく、漁がうまくいかなくなり周囲から「老いぼれ」と思われながらも漁をひたむきに続けている姿は格別の味わいを持たせている。気に入った文章は1ページ目の
かれは年をとっていた。
から始まり、
 この男に関する限り、なにもかもが古かった。ただ眼だけがちがう。それは海と同じ色をたたえ、不屈な生気をみなぎらせていた。
この文章がもうたまらなく好きで、渋みが迸っている。こういう年の取り方って憧れるなあ。
ストーリーはサメとの対決を描くもので、これがなかなかのアクション的な描き方をしていて、情景がまるで眼に浮かぶのである。どうしてかこれが眼に浮かぶのか不思議だけれども、そこが作品の楽しいところ。サメを追いかけ航海を数日かける場面ではもどかしいくらいに読者を待たせ、サンチャゴが感じた長い一日を見事に読者に感じさせるような所もまた見逃せない醍醐味である。そして倒したサメが、港に戻るときに別のサメに襲われるところの緊迫感にはたまげさせられる。見事な迫力である。

この作品には広大な音楽が欲しい、と思った。僕の中ではフレイムシフトのアルバム「アンウィーヴィング・ザ・レインボウ」収録のの#7「La Mer」、ずばり「海」なんていいんじゃないかと思いました。フレイムシフトの演奏には確かに海を感じさせる大きな海原を感じさせるものがあると思います。海のスケールにはピアノの響きとジェイムズ・ラヴリエのオペラ歌唱法は見事なマッチです。

ちなみに、本文にこういう下りがあります。
 海のことを考えるばあい、老人はいつもラ・マルという言葉を思い浮かべた。それは、愛情をこめて海を呼ぶときに、この地方の人々が口にするスペイン語だった。海を愛するものも、ときにはそれを悪しざまにののしることもある。が、そのときすら、海が女性であるという感じはかれらの語調から失われたためしがない。もっとも、若い漁師たちにあるもの、釣綱につける浮きのかわりにブイを使ったり、鮫の肝臓で大もうけした金でモーターボートを買い込んだりする連中は、海をエル・マルというふうに男性あつかいしている。かれらにとって、海は闘争の相手であり、仕事場であり、あるいは敵でさえあった。しかし、老人はいつも海を女性と考えていた。それは大きな恵みを、ときには与え、ときにはお預けにするなにものかだ。たとえ荒々しくふるまい、禍いをもたらすことがあったにしても、それは海みずからどうにもしようのないことじゃないか。月が海を支配しているんだ、それが人間の女たちを支配するように。老人はそう考えていた。
この文章も印象的で好きで、なるほどスペイン語の場合海は女性名詞なのか、と。この歌もまたラ・マルなのだ。

もうひとつだけ。
この「老人と海」には、ドビュッシーの交響曲「海」も間違いない。ドビュッシーがフランス語だとかはよくわからんけれど、ともかく3部の「風と海の対話」は素晴らしい。低音のうなりが波を表し、というのはもう説明する必要さえ無いことでしょう。

20世紀文学の傑作であり、それでも短めの文庫一冊にまとめられていて非常に読み易い。訳も非常にわかり易い。オススメの一冊です。
posted by しょうへい at 19:00| Comment(0) | TrackBack(1) | 重金属的文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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